知能指数の高い子供たちのこと
ルイス・ターマンによる「知能指数の高い子供」に関する研究がある。
この研究は、有名な研究なので、耳にしたことのある人もいるかと思う。今回は、この「知能指数の高い子供」の研究について書いてみたい。彼らは高い知能指数を生かし、社会的に成功するのだろうか。それとも、子供のころに期待されたほどではないのだろうか。
目次
研究の目的
ルイス・ターマンは、アメリカの著名な心理学者だ。
Lewis Madison Terman (January 15, 1877 – December 21, 1956) was an American psychologist, noted as a pioneer in educational psychology in the early 20th century at the Stanford Graduate School of Education.
出典:Lewis Terman - Wikipedia
教育心理学のパイオニアとして知られている。※スタンフォード大学の心理学者。
ターマンによる英才児研究の目的は、
1)「知能指数の高い子供」の特性を明らかにすること
2)「彼ら」の成長過程を追跡し、何らかの知見を得ること
であった。
知能指数の高い子供が、学業以外でも優れている、ということを証明したかった、ということもあるようだ。※たとえば、(当時は)知能指数の高い子供は社会的順応性に欠ける、という見方があり、ターマンはその見方を覆したかったようだ。
実験内容
対象は、1903~1917年に生まれた、学童期の子供1、500名であった。
※彼らの生涯にわたり追跡調査が行われた。
英才児の選抜方法
ターマンは、成績上位者1%の中からサンプルを取ろうとした。
学校の教師から推薦された優秀な児童に知能テストを受けさせ、IQ135以上と評価された子供たちだけを選抜したそうだ。※知能テストは、言語、論理、数学、空間能力を測定するものであった。※ほとんどがIQ140以上の子供たちになった。
IQ135以上の意味
平均から二標準偏差(2σ)以上「上に外れている」ということだ。
アメリカの英才児プログラムへの参加基準が130以上、博士号を持つ人の平均は130前後だそうだ。また、MENSAに入るためには、これぐらいのIQが必要になるそうだ。
メンサ(英: Mensa)は、人口上位2%の知能指数 (IQ) を有する者の交流を主たる目的とした非営利団体である。高IQ団体としては、最も長い歴史を持つ。会員数は全世界で約12万人。
出典:メンサ - Wikipedia
※女優のジョディ・フォスター(イェール大学卒)が加入している団体だ。
選抜された英才児の特徴
選抜された英才児には、ある程度共通の特徴がある。
英才児の子供たちは、早熟だったようだ。
言葉の出始めが標準より3.5ヶ月ほど早く、半数の子供は学校へ上がる前に、自分で本を読んでいたそうだ。知能指数の高さと本を読み始める時期には相関があるそうだ。
※知能指数が高ければ高いほど、本を読み始める時期が早くなる。また、早さにかかわらず、読書量が多かったようだ。
英才児たちは、7歳のときで、平均1時間/日、13歳のときで、2時間/日、読書に充てていたようだ。※読書の範囲も広かった(小説~ノンフィクション~地図、百科事典)。
好奇心旺盛で記憶力に優れる
英才児の子供たちは、好奇心旺盛で記憶力に優れたそうだ。
たいていの親が、わが子が何でもやすやすと理解し、好奇心が著しく旺盛で、記憶力がとびきりよかったことを報告している。
出典:才能を開花させる子供たち p.38
本を読み始めるのが早く、読書量も多い、記憶力に優れ、好奇心が旺盛なため、頭に膨大な情報を蓄積する、という傾向があったようだ。また、収集傾向(科学的収集)が多くみられたそうだ。
身体的発達や社会的適応性に優れる
英才児の子供たちは、身体的発達や社会的適応性に優れたそうだ。
身体的発達については、標準より1ヶ月早く歩き始め、健康面でも優れていたそうだ。社会的適応性については、意志の強さや向上心の強さが、人格面でプラスに寄与しているのではないか、と考えられる。
※平たく言うと、しっかりしており、同級生と比べて成熟している、ということだろう。
ただしこのことには、1)選択に偏りがある、2)ずば抜けて成績の良い子供の評価は、(成績以外の点でも)上がりやすい、という指摘もある。※ハロー効果の可能性がある。
英才児のその後…
気になる英才児のその後だが、
彼らのほとんどは、名前をよく知られている人間ではありません。たとえばノーベル賞を獲った者、政治を司る者、大富豪になった者はいません。しかし彼らは、それぞれの分野で傑出した才能を発揮しており、一定の富と名声を獲得したということです。
出典:『天才』が『ただの人間』であることを暴く、心理学者と神童たちの1世紀近くに及ぶ研究
多くは、それぞれの分野で一定の富と名声を獲得したようだ。
※普通の人からみれば、十分成功だろう。
ただし、
1990年代に入ると、神童たちは自らの人生を振り返るように求められました。しかし彼らの多くは、成功体験ではなく、若い頃に受けた期待に応えられなかったという『才能の限界』について語ったのです。
出典:『天才』が『ただの人間』であることを暴く、心理学者と神童たちの1世紀近くに及ぶ研究
本人たちは「才能の限界」を感じていたようだ。
期待値とのギャップに苦しんだ?
子供時代に受けた「高い期待」と現実とのギャップ、ということだろうか。
期待値が高ければ、その期待値と同等以上の成果を出さなければ、成功とは見なされない。英才児の場合は、成功のハードルが極端に高くなってしまうのだ。
ターマン組の英才児であれば、著名なCEOになったり、(学者であれば)ノーベル賞クラスの成果を残すことで、はじめて成功した、ということになるのだろう。
ターマンは後に、「彼らの知性と業績は完全に一致しない」と述べたそうだ。
参考: 「才能を開花させる子供たち」 エレン ウィナー(著)